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China Joy 2010から読み取る、中国ゲーム産業の戦略と展望<前編>

 

 現在6900万人のオンラインゲームユーザーを抱え、市場規模は今後3年で年平均42%成長、2012年にはユーザー2億3000万人、107億ドル(約1兆700億円)になると分析される、中国オンラインゲーム市場。しかし巨大市場の実態を把握できる情報やデータは少なく、現地調査や政府からの正確なデータ取得も困難とされる中、中国最大のゲームショウChina Joyが今年も開催された。


エンターブレインは日本のメディアで唯一、オフィシャルメディアパートナーとして第1回開催からChina Joyの成功をバックアップしてきた。第8回の開催を迎えた今回、同イベントは中国オンラインゲームパブリッシャーを中心としたゲーム業界関係者にとって、熱心なゲームファンに対する感謝を示す機会であると同時に、プレスに対して当年の戦略や展望を示す、重要なイベントになりつつある。


今回、中国ゲームビジネスの第一人者であり、f-ism.netでも海外ゲーム市場の最新情報を定期レポートしている、立命館大学映像学部准教授・中村彰憲氏が、中国オンラインゲームパブリッシャー各社の戦略展開を浮き彫りにすべく、緊急インタビューを敢行した。

 

 

■ 多様化とメディアコンバージェンスの時代に備える‘総レジャー時代’

 今回、もっとも筆者中村が強い印象を受けたのは、オンラインゲームやブラウザゲームのパブリッシャーでありながら、コンテンツの多メディア展開を意識した企業が台頭してきているという事実だ。


 これは、ゲーム産業の長期的発展が続いていると同時に、富裕層を中心とした総レジャー時代が始まりつつあるいう顕れである。最近は『喜羊羊及灰太狼』の劇場アニメ大ヒットという形で、オンラインゲーム以外のコンテンツも成功し、資本力を兼ねそろえた中国ゲーム企業にとって、この状況は千載一遇のチャンスと見てとれるに違いない。


China Joy 2010
▲今年も盛況のうち幕が閉じられたChina Joy。ユーザー向けのイベントと同時進行で、ゲーム産業に対するその年の政府基本方針などが、明かされる。


 そこでここからは、各企業経営者のインタビュー内容を抜粋して紹介していく。まずテンセント(中国語名:騰訊)は、中国ICT業界の巨人であり、中国オンラインゲームパブリッシャーの中でも、盛大ネットワーク、ネットイースと並び、事実上のトップ層を走っている。インスタントメッセンジャーである‘QQ’は昨今、同時接続者数1億人を達成した。久遊は『ダンシングパラダイス』や『O2Jam』などを運営し、カジュアルオンラインゲームの流行をけん引した。現在も音楽カジュアルゲームを展開しつつ小説、漫画などの人気キャラクターのMMORPG化を進めている。またTaomeeは、子供向けブラウザゲーム『摩尓荘園』で大成功を収め躍進した新鋭企業だ。

 


■ インタビュー001:テンセント
ゲーム初心者の中国ニーズを正確に掴み取れ


China Joy 2010
▲テンセント インタラクティブエンターテインメント事業部副総裁Steven Ma氏。今後、日本への展開も考えているという。

 当社テンセントは、Unreal Engine3を用いてFPS『戦地の王』を開発した。一般的に同エンジンを用いての描画には、ハイスペックなPCが必要だが、当社ではコンテンツを調整し、中国国内のどのようなPCでもほぼ対応している。また『クロスファイア』の運営からFPSジャンルの開拓を進めているが、今後さらにこのジャンルを中国市場で広めていく計画だ。


 また将来的に可能性を感じるジャンルの一つとしてスポーツがあるが、弊社としては『NBA 2K Online』を現在開発中だ。またブラウザゲームも重要なジャンルと認知し、弊社タイトルでは『QQ農場』や『QQ牧場』が人気を得ているが、今後は10-60歳まで楽しめるような作品開発に取り組んでいきたい。


 一方、アクションゲームだが、日本のプレイヤーと中国のプレイヤーでは市場の段階が違うということを理解する必要がある。日本のプレイヤーは十数年ゲームを遊び、さまざまなジャンルのゲームに触れ続けてきたのに対し、中国のプレイヤーはゲームを遊び始めたばかり。多くの人にとって、現在プレイしているゲームが人生の中で初めて触れたゲームである。彼らのニーズと十数年プレイしてきたプレイヤーとのニーズには、大きな違いがある。だが同時にゲーム性や操作性に対する細かさというのは日本市場同様、鍵となってくるだろう。そのゲームの面白さを、如何に中国ユーザーのニーズに合致させるように努めるかが、成功する上で重要となってくる。


■ インタビュー002:久遊網
香港、中国双方で人気のコンテンツをマルチメディア展開!


China Joy 2010
▲当日の訪問に快く対応いただいた、久遊網の陳曉江プロデューサー。
 我々は、漫画作品のオンラインゲーム化を展開する上で香港、中国大陸内双方で人気のある黄玉郎氏の作品を検討していたが、その中でも特に同氏を代表する作品をと思いゲーム化を進めたのが、『神兵伝奇』だった。また、武侠小説の中でも特に人気のある作家、古龍氏についても、同氏の代表作『流星蝴蝶剣』のオンラインゲーム化を進めている。この作品はこれまで何回もテレビドラマや映画化されてきており、それぞれのプロジェクトに2年前から100名以上の開発スタッフが投入されている。両作品ともUnrealEngine3を採用しているが、技術的な課題は本社でも取り組んでいる。


 ゲームデザインとしては、『神兵』はRPG要素重視、『流星』はアクション重視としているが、『流星』は以前台湾のインターサーブが開発したパッケージ用ゲームからもインスピレーションを受けた。マルチメディア展開も考えており、『神兵』の場合は、黄玉郎氏に制作発表会に参加してもらうなど、原作との連携を進めている。また、適切なパートナーを見つけることができればアニメ化も実現できるだろう。一方で、『流星』は新たにテレビドラマや映画製作の可能性を模索中だ。


China Joy 2010 China Joy 2010
▲『神兵伝奇』は黄玉郎作品の中でも特に認知度、人気が高い作品の一つ。 ▲『流星蝴蝶剣』は古龍の傑作小説のゲーム化。PCゲーム化もされている。


■ インタビュー003:Taomee
児童向けカジュアルブラウザゲームトップ企業もキャラをマルチ展開


China Joy 2010
▲マーケティングディレクター、Laura Guo氏。
 現在、6歳から12歳までの中国インターネットユーザーは6000万人と言われているが、基本的に小学生が最初にインターネットで慣れ親しむキャラクターが、我々のもっとも成功しているオンラインゲーム『摩尓荘園』(日本語意訳『ムーアの荘園』)の『摩尓』である。キャラクタービジネスでは、ディズニー、喜羊羊与灰太狼に続き、三番目に人気があると言われ、インタラクティブコンテンツとしては子供部門でもっとも人気があると言われている。


 子供にゲームをプレイしてもらうには、親からの承認が必要なため、私達は健全なネットサーフィンを第一に考え、あらかじめ45分ごとに休憩できるようにプログラムしています。またゲームそのものから収益は望んでいません。私達はオンラインゲーム企業ではなく児童向け娯楽商品の企業なのです。したがって、収益も物販販売から成り立っています。


 また2010年10月には舞台を、そして2011年2月には『摩尓荘園』の映画上映が控えています。アニメ制作にもすでに取り組みました。私達が目指しているのはインタラクティブエンターテインメントを中心としたキャラクタービジネスの展開です。マルチメディア化に加え、書籍、グッズなど、玩具から小物まで、さまざまなものを扱っています。
China Joy 2010 China Joy 2010
▲他のブースとは違いTaomeeブースは子供たちであふれかえる ▲親子で楽しくゲーム、というのもTaomeeブースの特徴だ


■ まとめ:ネットワークが成長させた中国コンテンツ産業


 コンテンツ産業が、ネットワークを介することによって合法的な収益に結びつくことが「確認」されて10年。中国経済そのものの発展も手伝い、中国はアジア随一のオンラインゲーム大国へと成長した。同時に収益を上げるためのさまざまな工夫がなされ、コンテンツのマルチメディア展開の多様化が飛躍的に進んだのも、この10年間の特徴と言えよう。


 このコンテンツ享受方法の多様化に加え、海外市場から資金を調達することで、中国コンテンツ産業において大きな影響力をその手にした企業も多数存在する。次回は、China Joy取材時に実感することができたもう一つの潮流、「中国オンラインゲーム企業のグローバル化」について言及した、経営者のコメントを紹介する。

 

<後編はこちら


[ Reported by 中村 彰憲 ]

 

 

China Joy 2010とは……

中国最大のゲームショウ。今回は上海・新国際博覧中心で2010年7月29日〜8月1日にわたって開催された。2004年1月に第1回が行われ、「2010」が8回目の開催となる(2004年は2回開催)。

※China Joyの公式サイトはこちら

 

 

著者紹介:中村彰憲(Akinori Nakamura)

Akinori Nakamura

立命館大学 映像学部准教授。名古屋大学国際開発研究科後期課程修了。早稲田大学アジア太平洋研究センター、立命館大学政策科学部を経て、現職。学術博士。ブロードバンド推進協議会(BBA)オンラインゲーム専門部会 副部会長、日本デジタルゲーム学会(DiGRAJapan)理事。エンターブレインのゲームマーケティング総合サイト「f-ism.net」にも海外ゲーム情報を中心に連載中。主な著作に『中国ゲームビジネス徹底研究』シリーズなど。

 

 

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 アジアを中心とするゲームビジネス研究の第一人者である中村彰憲氏が、着眼点を世界へ広げ、「ユビキタス化したゲーム」の現状を探るべく業界の第一線で活躍中の蒼々たる経営者にインタビューを決行。現在の経済状況に対する各トップの所感から、ゲームをとりまく最新テクノロジー、消費者動向の変化、コンテンツ開発システムと社内ナレッジ共有システムの現状、グローバル展開の行方と今後の展望などについて究明した、渾身の一冊。

 

 

 

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