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China Joy 2010から読み取る、中国ゲーム産業の戦略と展望<後編>

 

<前編はこちら

 

 中国オンラインゲームパブリッシャーによる会見やインタビューの中から、前回フィーチャーした「メディア・コンバージェンス」という流れに加え、もう一つの大きな潮流を実感できたChina Joy 2010。

 

 それは、中国ゲームパブリッシャーに迫る、グローバル化の波だ。今回は特にその実例として、パーフェクト、キングソフト、Snail Soft、Pop Cap Asia経営陣トップのポイントオブビューを、前回に引き続き、中国ゲームビジネスの第一人者である立命館大学映像学部准教授・中村彰憲氏が紹介する。

 

China Joy 2010
▲盛り上がるChina Joy 2010の会場内風景。

 

 パーフェクトは、同社自社開発によるオンラインゲームタイトルを中国国内において成功させただけでなく、日本や北米も含む全世界20カ国以上で運営している。さらに米国とロシアに支社を、マレーシアに小会社を設けていることで知られる。2010年4月にも、日本のオンラインゲームパブリッシャー、シーアンドシーメディアをアトラスから買収した。

 

 またキングソフトも『剣侠情縁網路版』がベトナムで大ブレイクを果たし、同国におけるオンラインゲーム企業の躍進をけん引した。Snail Softは、中国国内企業として最初に韓国市場に参入を果たした企業として知られる。一方、Pop Capは中国にも拠点を設置し、今後の同国における展開の可能性を模索している、世界でも有数のカジュアルゲームパブリッシャーだ。


■ インタビュー004:パーフェクト(完美時空)・総裁 竺K氏
地域のニーズに対応した開発と進出方法を選択


China Joy 2010
▲パーフェクト(完美時空)・総裁 竺K氏

 弊社は海外市場において、2006年に最初の作品を正規リリースして以来、グローバル化に加速をつけた。海外展開で重要なのはローカリゼーション。グラフィックなど、各地域のニーズに合わせた修正は必須であるが、地域のニーズに対応した開発を徹底した点が、現在弊社がグローバルに成功している理由である。

 

 我々の中で、海外市場は主に三種に分類できると感じている。一つは中国やアメリカのように、大規模かつ市場が急成長する地域。一方は日本や韓国、台湾のように、ゲームがエンターテイメントとして成熟した市場だ。最後は、急速な成長が進むものの、市場が不明瞭な新興地域。そしてこれら地域ごとに、進出手法を変えていく必要があるだろう。

 

 また、iPad・iPhone向けコンテンツについては、小規模のゲームや小説などのリリースを考えているが、より大規模なコンテンツ開発については収益の見通しが立つまで参入は控えるのが妥当と考えている。


China Joy 2010 China Joy 2010
▲『笑傲江湖』は金庸代表作のオンラインゲーム化。 ▲『神魔大陸』は、伝統的なファンタジー世界の大型MMORPGだ。


■ インタビュー005:Snail Soft・副総経理 何一希氏
武侠ジャンルの海外展開に期待


China Joy 2010
▲Snail Soft・副総経理 何一希氏

 当社のコンテンツの全売上における海外比率は、4割を占める。現在開発中の『九陰真経』についても、リリース前から日本、インドネシア、中東、南アメリカ以外ではライセンスを販売してきた。またすでにロシア、韓国、香港、台湾、タイ、ベトナム、マレーシア、フィリピン、シンガポール、イギリス、フランス、ドイツ、イタリア、ポーランド、アメリカでのサービスインが決定している。さらに日本についても、何社かアプローチを始めたが、まだあまり手ごたえはない。武侠ジャンルがどこまで海外で受け入れられるかは未知数だが、期待はしている。一時期、『航海世紀』を、中国国内にサーバーを設置し、日本に向けてサービスをしていたがあくまでも市場テストの一環として行っていた。

 

 現在はアメリカ、ロシアに拠点を設置。グローバル展開の準備を整えている。現段階においては、これらの企業を経営するだけで精一杯であったため、日本にスタジオを設立する段階に至っていない。これまでは、アメリカ、マレーシア、ヨーロッパにおいて、我々の商品が特に受け入れられてきたと感じている。ダンスゲーム『ファイブストリート』は、マレーシアとロシアで人気を得た。我々はさまざまなジャンルのゲームを揃えてきたため、各市場の特徴に伴い、人気を得る作品も違ってきている。

 


China Joy 2010 China Joy 2010
▲『九陰真経』は日本を除くほとんどの地域でのサービスインが決定している。 ▲『帝国文明』はブラウザーゲームとしては数少ないRTSで期待が膨らむ。


■ インタビュー006:キングソフト・海外事業部、海外業務経理 林峰氏
自社エンジンで3D・MMORPGでリリース


China Joy 2010
▲キングソフト 海外事業部・海外業務経理 林峰氏

 キングソフトは、『剣侠情縁網路版』(以下『剣侠』)を2Dで、『剣侠2』を2.5Dでリリースしたが、『剣侠参』は3D・MMORPGでリリースした。『剣侠参』は、自社エンジンにより、200人以上が5年をかけて開発した大作で、2009年9月23日から中国でサービスが始まっている。ユーザーの反応も良く、ネットカフェでプレイするユーザーと、自宅でプレイするユーザーがほぼ半数ずつ存在する。これは皆で一緒のプレイすることでより一層楽しめるゲーム性からだ。

 

 『剣侠参』は、従来シリーズ並の収益を得ており、現在弊社では世界各地域でのリリースの可能性を模索している。特にベトナム、マレーシアはオンラインゲーム市場が成長を続けているので、早急に展開を進めるべく交渉を続けている。おそらく2010年末から2011年の初頭までにはリリースできるだろう。また韓国についても、うまくいけば2011年の春には展開できると見ている。

 

 一方、日本での展開については現存の日本支社での展開よりは、ライセンスアウトが妥当だと思っている。日本支社はソフト販売が専門で、オンラインゲーム運営の経験がないからである。ただ日本のオンラインゲーム市場は、すでに成熟状態であるため、新規性の高いコンテンツは難しいだろう。また、海外展開をする上での懸念は、『剣侠参』が月額課金であるということだ。ただ日本ではアイテム課金が主流となっているが、アイテム課金にしてしまうとゲームバランスに問題が生じてしまうので、実際は困難である。

 

 もう一方で新たに開発中なのがアクションベースのMMORPG、『上古神殿:Lost Temple』だ。本作は、70人程度で、北京のスタジオで開発しており、2010年末にはリリースする予定だ。西洋ファンタジー系の要素も入った本作品は、キングソフトとして初めての試みだ。今作のグローバル展開だが、まずはマレーシアでサービスインを進め、その後ヨーロッパ、北米、そして南アメリカへと進めていく。各国でパートナーを見つけ、マーケティングテストを行うことで現地のニーズに対する理解を深め、全世界展開を視野に入れていきたい。


China Joy 2010
▲『剣侠情縁参』の3Dデモは場内でも活況だった。


■ インタビュー007:Pop Cap Asia・オンラインゲームオペレーションディレクター Gary Mi氏
自社に最適なパートナー探しを


China Joy 2010
▲Pop Cap Asia・オンラインゲームオペレーションディレクター Gary Mi氏

 当社は、シンガポールに拠点を置き運営サービスを進めているが、市場規模の小ささがかねてからの課題となっている。この国は非常に優れたビジネス環境があるものの、グローバル企業にとって市場の小ささというのは、常に懸案事項となるからだ。

 

 一方Pop Capは、シアトルをベースとしたベンチャー企業であり、アジアでの展開自体は、まだ実験段階にある。その中で、中国はこれからアウトソーシング拠点から、コンテンツ開発拠点になると感じている。中国の方式が世界で通じるとは誰も信じていなかったが、ここで本格的に展開されたアイテム課金モデルは、今世界を牽引している。ソーシャルゲームにしても、Zyngaが開発した『Farmville』は、上海51Minutesが『ハッピー農場』と銘打ち、農場経営シミュレーションをオンラインゲームとして最初に打ち出したものの、模倣だ。

 

 現在はFacebookでも数多くのタイトルが中国語でリリースされるようになっている。また、海外企業との合弁や投資が、中国ゲーム業界において活発に行われるようになった。ただ中国の状況を考えた時、コンテンツの開発と運営は切り分けて考えなければならない。コンテンツを開発するノウハウと、現地の消費者を理解し、常にゲームをプレイしたいと意識を掻き立てるノウハウというのは、全く違うものだからだ。重要なのは、どの運営業者が、パートナーとして自分達に適しているのかを見極めることである。これはPop Capにとっても重要な課題だ。



■ まとめ:不可避な中国市場との対峙


 中国市場の躍進。それは中国国内企業の人材のみならず、グローバルに活躍するクリエイター達も感じとっている。今年もChina Joyと時を同じくして行われたIGDA Shanghaiによる開発者パーティでは、800人もの業界関係者が出席。昨年の500人から比較しても、大きく参加者数が伸びている。そしてその多くが、アメリカ、ヨーロッパ、東南アジアといった、さまざまな地域から新たなビジネスチャンスを狙い来中した人々なのだ。

 

 今も不断なる成長と拡大を続ける中国市場。この巨大な流れは、否が応でも日本に押し寄せてくる。その特異性から、多くの日本企業は中国ゲーム業界への直視を避けてきたが、もうそのような時代ではない。日本が作り上げてきたコンテンツは、非合法市場でもどん欲に中国人により消費され続けており、日本で生み出されあらゆる作品が中国消費者にとって魅力的なのは明らかなのだ。

 

 今回筆者が上海万博を視察した際、日本産業館が5時間待ちだったのも、それを物語っている。そしてグローバル経営を意識している多くの中国ゲーム企業は、その魅力を熟知しているのだ。日本のゲーム業界はいずれ、市場、行政、競合、あらゆる意味で「中国」と対峙しなければならない時が来るだろう。

 


China Joy 2010 China Joy 2010
▲好評を博している日本産業館。当日は炎天下の中5時間待ちとなる盛況ぶりだった。 ▲上海万博が今の時代を代表するイベントとして後々語り継がれるのは間違いないだろう。

 

[ Reported by 中村 彰憲 ]

 

 

China Joy 2010とは……

中国最大のゲームショウ。今回は上海・新国際博覧中心で2010年7月29日〜8月1日にわたって開催された。2004年1月に第1回が行われ、「2010」が8回目の開催となる(2004年は2回開催)。

※China Joyの公式サイトはこちら

 

 

著者紹介:中村彰憲(Akinori Nakamura)

Akinori Nakamura

立命館大学 映像学部准教授。名古屋大学国際開発研究科後期課程修了。早稲田大学アジア太平洋研究センター、立命館大学政策科学部を経て、現職。学術博士。ブロードバンド推進協議会(BBA)オンラインゲーム専門部会 副部会長、日本デジタルゲーム学会(DiGRAJapan)理事。エンターブレインのゲームマーケティング総合サイト「f-ism.net」にも海外ゲーム情報を中心に連載中。主な著作に『中国ゲームビジネス徹底研究』シリーズなど。

 

 

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グローバルゲームビジネス徹底研究

 アジアを中心とするゲームビジネス研究の第一人者である中村彰憲氏が、着眼点を世界へ広げ、「ユビキタス化したゲーム」の現状を探るべく業界の第一線で活躍中の蒼々たる経営者にインタビューを決行。現在の経済状況に対する各トップの所感から、ゲームをとりまく最新テクノロジー、消費者動向の変化、コンテンツ開発システムと社内ナレッジ共有システムの現状、グローバル展開の行方と今後の展望などについて究明した、渾身の一冊。

 

 

 

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