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スクウェア・エニックスのアジア戦略:

中国最大手・盛大との連携の先に見えるものは

 

 2010年9月16日、スクウェア・エニックスは、中国最大手のオンラインゲームパブリッシャー・盛大遊戯(Shanda Games)と提携し、『ファイナルファンタジーXIV』を中国本土において展開することを発表した。今回は、1年前の2009年に行われた、中村彰憲氏による和田洋一氏(スクウェア・エニックス・ホールディングス代表取締役社長)のインタビュー記事(当時は「f-ism.net」有料会員のみ閲覧可)を特別公開。はたして、同社のアジア戦略とは如何なるものなのだろうか? その背景に迫る。(初出|「f-ism.net」海外アナリシス グローバル時代のゲーム産業:キーマンインタビュー 第3回・第4回/2009年6月3日・7月10日掲載)

 

 

 ゲーム市場がまさにグローバルの大きな潮流に合流し、大手パブリッシャーでさえメディア・コングロマリットの中に取り込まれる可能性があるという環境におけるこれからのゲームビジネスのあり方をキーマンに問う本シリーズ。今回は、株式会社スクウェア・エニックス・ホールディングス代表取締役社長の和田洋一氏にお話を伺う。

 

■ ユーザーはゲーム体験を忘れない。経済環境とユーザー経験は別に論じられて然るべきだ

 

China Joy 2010
▲株式会社スクウェア・エニックス・ホールディングス 代表取締役社長 和田洋一氏

中村:ESA の発表では、08年の売上は、過去最高だったとのことですが、ポスト金融恐慌の時代とも言える08年のクリスマス商戦から09年以降の売上は前年比で落ち込みを見せ、各メジャーパブリッシャも現在苦境に立っています。これらをふまえたうえで、ゲーム産業のこれからをどう分析していますか?

 

和田洋一氏(以下、和田):ゲーム産業はこれからもエンターテインメントの主流として発展していくだろう。ただ如何なる業界も毎年成長を続けるなどということはない。すこし売り上げが減少するとメディアは騒ぎ立てて

いるが、中長期のトレンドという意味では今後もゲーム産業は伸びていく。つまり、ゲームコンテンツやサービス(ゲーム)と顧客との関係は変わらないのだ。だが、ゲームメーカーから顧客までのバリューチェーンを構成する要素のいくつかは経済の影響を受ける。例えば流通業者にファイナンスの影響が出ると、彼らが在庫を抑えるため顧客のニーズがあったとしてもゲームの出荷を抑制せざるを得ない。

 

 ただ、これはゲームと顧客の間を媒介するビジネスが経済的影響を受けるというだけで、ゲームと顧客との間に築かれた関係とはまた別の話だ。これからゲームと顧客の関係はもっと深く、そしてもっと広くなるだろう。また、この関係が景気によってすぐさま影響を受けることはないであろう。ただ、長きに渡ってこれが続いてしまうという場合は別だ。例えば10年以上もゲームをしていない、という人が増える場合などだ。

 

中村:今年のエレクトロニックエンターテインメントエキスポ(以下、E3)ではプラットホーマーを中心に大変驚きに満ちた内容でしたが、キーワードをいくつかあげるとしたら、なんだと感じましたか?

 

和田:家庭用ゲームが我々の生活に浸透して以来、業界として一貫して取り組んでいるのがゲーム体験の多様化だ。多様化の歴史を振り返ると、コントローラからインプットし、ディスプレイからアウトプットするという基本構造自体は長い間変わっておらず、ゲーム体験の多様化、リッチ化はソフトにおいて進化してきた。05年から顕著になるが、アクションゲームやFPSは操作に習熟することをインセンティブにするよりも、操作性をかなり簡単にしたうえで中の世界にどっぷりとつかる事を目的とする、という様にが変わってきた。

 

 これはソフトウェア的な対応がまず先行して、実績を挙げた一例と言える。ハード的な対応というのは任天堂のWiiやニンテンドーDS(以下、DS)、またプレイステーション2(以下、PS2)でもEye Toyなどの登場により進められてきた。そして今年のE3ではマイクロソフトがProject Natalを、ソニー・コンピュータエンタテインメントがSony Motion Controllerを提案してきた。つまりゲーム体験の多様化をハードにおいて進めてきた流れの一つととらえることができる。これからはさらに、アウトプットでも多様性を出す動きが出てくるだろう。具体的には3D体験などだ。

 

 ただし、何がメインストリームになるかは誰にも分からない。今回発表されたものも重要だと思うが、これらの技術そのものは実験段階であることも確かだ。流れは正しい方向に向かっていると思っている。本質的に重要なのは「体験」だ。この「ゲーム体験」の多様化と深掘りを同時に行うには、ユーザーの選択肢を増やす必要があるだろう。パズルなどのカジュアルゲームの広がりが多様化の象徴のように言われることがあるが、一例に過ぎない。今後も多様化は進むだろう。

 

 もうひとつのキーワードはネットだ。ネットで世界中がつながったのはつい最近のことだ。現在、あらゆるゲームがネットにつながる可能性を秘めている。ネット対応ついては、ゲームコンソールがこれまで最も遅れていた。PCについては以前からネット接続が行われていたし、携帯電話に関してはそれ自体が通信端末だ。とすると、唯一ネットにつながっていなかったのはゲームコンソールだった。それが今では全部繋がってきているのだ。ネット上で如何にゲームが進化していくのかもこれまでの一貫したテーマとなっている。

 

■ インプットデバイスの革新とネットワークがゲームを更に進化させる

 

中村:MS のProject Natalのように、新たなユーザーインターフェイスをカジュアル路線だけでなくインタラクティブなストーリーテリングへの転用が可能であることを示唆した企業もあるが、このようなモーションセンサテクノロジー使用における脱カジュアル志向の流れについて、如何なる展望をお持ちですか?

 

和田:ユーザーインターフェイスとして非常に大きな可能性があると見ている。ただ、ゲームデザインは結構難しいことになるだろう。リビングの大きさが欧米と日本とでは全然違うことも商品設計を難しくしている。必然的に、各国・地域でかなり違う使われ方をするのではないか。ただ、Natalで示されたような直観的なインターフェイスがゲームコントローラという意味だけではなく、生活のあらゆる場面で使用されるインターフェイスの標準の一つになると思っている。そのような意味でもっと広がりもうまれるだろう。限定的なデバイスとして捉えるべきではない。当社も真剣に考えていくつもりだ。

 

中村:PSP Goのようにダウンロード販売を前提としたハードの登場もありますが、これまで御社はグループとしてダウンロード販売も精力的におこなってきました。一般流通とダウンロード販売ではそれぞれどのようなメリット、デメリットがあったと感じていますか?

 

和田:ゲームに限らず、コンテンツ/サービスの流通はあらゆる点においてネットにシフトすると思っている。もちろん、ダウンロード販売においてはマーケティング・プロモーションの在り方が従来から大きく変わるため、この辺を補わないといけない。既にスクウェア・エニックスとタイトーでは、昨年からiPhoneをはじめとしたスマートフォンへのコンテンツ配信も意識的に行っているが、数万本もあるアプリの中で如何にプロモーションを行っていくか、議論すべき点はむしろそこだ。それ以外はどう考えてもダウンロード販売のメリットは大きい。過去に発売したタイトルの配信や、最初の1時間をプレイしたところで次のデータを送るというような段階的データ配信も可能だ。これはパッケージゲームでは行うことが出来ない。

 

 在庫リスクがないため、配信タイトルを増やしていっても問題はない、原価も安いなど良いことだらけだ。実際、通常では販売が見込めないような作品も長期にわたり少しずつ売れる傾向にある。リアル店舗を運営する小売業者には、このような販売傾向の作品は好まれない。棚が限られているため作品も次々と新作へ入れ替える必要があるためだ。こうした背景もあり新作の販売期間を如何に長くできるかという意味で廉価版が生まれた。だが廉価版を制作するにはリパッケージしなければならない。ダウンロード販売であれば、「数年前にリリースされた誰も知らないこのタイトル」といったマニアックなニーズにも対応出来る。これは店頭での販売だけを前提とする限り実現は難しい。

 

 これからは検索機能の最適化といったものが必要となってくる。コンテンツポータルに関してはPC向けについても携帯電話向けについても徐々に進んでいった。コンソールに関して言うとそれがXbox Liveであり、Playstation Network、Wiiウェアやバーチャルコンソールであるわけだが、現在は一元化されているポータル機能もいずれはオープン化の方向に進むだろう。ポータルが一元化されている現在は、ポータル提供事業者との連携が最も重要になる。だが、オープン化が進みゲームソフト会社が自らポータルを立ち上げられるようになれば自社でプロモーションを行う方が効果的だ。段階的にマーケティング・プロモーションの方法を変えていく必要があるだろう。

 

■ Eidosのコンテンツが加わることで、ストーリーテラーとしてのスクウェア・エニックス・グループの個性が更に際立つ

 

中村:御社にとっての今年度の一大事業は、英大手ゲーム会社Eidos Ltd.(以下、Eidos)の買収でしたが、既存のラインナップにEidosのコンテンツが加わることで、プロダクトポートフォリオが如何なる形で強化されましたか?

 

和田洋一氏(以下、和田):まず、お気づきの方もいるかと思うが、Eidos作品の基調に流れているのはストーリーである。『トゥームレイダー』『Hitman』『Kane & Lynch』『Deus Ex』『Just Cause』という作品からも分かるとおり、Eidosはストーリーテラーだ。特に『トゥームレイダー』は十数年も前にララ・クラフトという最もキャラクターを際立たせた作品をつくりあげた。アクションゲームというジャンルでキャラクターを前面に出したというのはこれが最初だと思う。ゲームというのは画面の外側に主役がいる。つまりユーザー自身であり、プレイングキャラクターはユーザーが自身を投影するものでしかなかった。だが、『トゥームレイダー』ではあくまでも主人公ララ・クラフト。彼女を操作するという感覚になる。つまりストーリー性が強い作品ということだ。

 

 このストーリー性の強さは、スクウェア・エニックスというブランドとの共通点でもあり、だからこそゲームジャンルの違いというのがシナジーになると考えている。おそらく単純に作品のジャンルが異なるということで、例えばパズルゲームの得意な会社を買収してもシナジー効果というのは見込めないだろう。ストーリーテラーのRPG系、アクション系、アドベンチャー系とジャンルを増やしてくことでシナジーが生まれると思う。

 

 Eidosの買収は海外でも好意的に受け止められている。発表当初は戸惑いもあったようだ。それはEidosがイギリスにおいて唯一上場していたゲーム会社であったためだ。Eidosは彼らのとって、ゲームの魂のような存在だったのだ。だが、当社グループとEidosとの関係が明らかになるにつれて、非常にポジシティブに受け止められるようになった。グループとして決めた経営戦略についてはしっかりと実行してもらわないとならないが、モノづくりに関してはグループ会社間で知識や技術の共有を進めたり、共同プロジェクトを起こすことはあっても、こちらから何か指示を出し、型にはめるようなことはしない。質の低いモノをつくってしまうことは許されないが、そうでなければ彼らの特性を伸ばしていくようにしていきたい。

 

中村:Eidosについては自社が持つコンテンツの映画化を大変うまく実現してきた(ライセンス先の選択などで)企業ですが、今後、映画産業との連携はどのように進めていくのでしょうか?また、そこでのノウハウをどう他のグループ会社と共有していくのでしょうか?

和田:映像産業はゲーム産業と相性が良い。ある世界の中にユーザーを招き入れその中での体験を付加価値にするという意味では、ゲームが提供するユーザー体験も映画が提供する体験も同様に価値がある。従って、多面展開にも意味がある。

 

 スクウェア・エニックスはどちらかと言えば全て自社でやってしまう傾向にある。『FINAL FANTASY VII ADVENT CHILDREN』(DVD版)は全世界で410万枚以上を出荷したが、これは敢えて既存の映画業界の流通チャンネルを使わずに販売を試みた。映画興行を行わずにストレートにパッケージDVDとして販売し、その流通もゲーム流通を応用することに決めた。海外ではSony Pictures Entertainmentに販売をお願いしたが、ソニーグループは傘下に映画とゲームの両方をもっていることもあり、ゲーム寄りの考え方で流通をデザインしてほしいという依頼をした。国内のゲーム流通は大変ポジティブに受け入れてくれた。ショップにとっては優れたコンテンツを店頭に置くことが出来たからだと考えている。

 

 Eidosは、ハリウッドとの関係も良好。スクウェア・エニックスは実写映画にそもそも挑戦したことがないし、映画会社の中でも関係があるのはSony Pictures Entertainmentのみだった。これからはグループ各社の経験値を如何に活用していくか、互いに学ぶことで更なる可能性を模索していきたい。

 

■ ネットワークからペーパーエンターテインメントまで全方向にプロダクトポートフォリオの拡充を目指す

 

中村:前回のインタビューで全体的なトレンドの中でデバイスにおけるインプットの多様化について触れましたが、そのような流れを御社の中ではどう戦略に落とし込んでいますか?

 

和田:対応デバイスの多様化によって、ゲームを多様化させ、間口を広げるということに関しては当社でもいろいろと試してはいる。例えば『ドラゴンクエスト』シリーズを例としてあげると、初期の取り組み例として『剣神ドラゴンクエスト 甦りし伝説の秘剣』がある。同作品は2003年9月に玩具として発売したものだ。また、業務用カードゲーム機の『ドラゴンクエスト モンスターバトルロード』(2007年6月稼働開始、2008年12月に『II』を稼働開始)があるが、これもユーザーインターフェイスを変えた作品と言えるだろう。

 

 また、携帯電話向けに提供している『ドラゴンクエスト』シリーズの各種ゲームもそうだ。そして『ドラゴンクエストIX 星空の守り人』はDS向けゲームだ。これまでも『ドラゴンクエスト』シリーズでは、ゲームボーイをはじめとした携帯型ゲーム機での展開も行ってきたが、今やDSというと一家一台というよりは、一人一台というハード。このゲームでは、友達同士、家族同士で遊んでもらうことが開発コンセプトの中でも重要な位置づけにある。これは、DSが一人一台所有するという状況を前提にしたゲームデザインコンセプトだ。

 

中村:E3では『FINAL FANTASY XIV』(以下、『XIV』)が発表されたわけですが、ブロードバンド時代、コネクテッドエンターテインメントがより浸透している時代という中で、本サービスを如何にポジションニングしていこうと思いますか?

 

和田:MMORPGは、以前はやや特殊なエンターテインメントとして扱われるきらいがあったが、現在はネットワークエンターテインメントの一つとしてしっかりと認識されてきている。『FINAL FANTASY XI』(以下、『XI』)はオンラインゲームが好きな層と「ファイナルファンタジー」シリーズだからオンラインゲームをはじめた層が主なユーザーベースだったが、『XIV』でも引き続きゲームコンソールとPCの両方に対応することで、もう少し一般のユーザーも取り込んでいきたい。

 

中村:ライトなユーザーを取り込んでいくうえでどのような事を進めていくつもりですか?

 

和田:ゲームデザイン的にプレイ初期の敷居を低くするのは当然だが、オンラインゲームの場合、プレイし始めてからの時間の拘束が課題だ。また、パーティを組むだけでなく、シングルで遊ぶ時にも如何にプレイを楽しめるのか、またパーティで遊ぶ場合もレベルの格差を乗り越えた上でどのようなプレイであれば楽しんでいただけるのかを今回はかなり意識している。『XI』はパーティプレイを中心にしていた。ただしパーティを組むと抜けるのが大変だったり、パーティ同士一定のレベルでないとプレイしづらいといった声もあった。そこで『XIV』ではゲームの世界に自由に入り、自由に出る事ができることを意識して、ゲームに参加していただいてからの敷居を下げることを重点に置いている。MMORPGというデザインは変えないが、よりユーザーフレンドリーにする予定だ。がっつりとプレイするときも、サクっと短い時間でプレイする場合にも対応していきたい。

 

中村:コミック市場は確かに以前と比較して加熱はしていないものの、確実に一コンテンツとして浸透がはじまっています。そのような視点から、スクウェア・エニックスのコミック誌『月刊少年ガンガン』などが持つバラエティ豊かなコンテンツのラインナップを如何にしてグローバル展開していくのでしょうか?アニメ作品との連動、そしてゲーム化という視点も含めご説明ください。

 

和田:スクウェア・エニックスのコミック作品は現在国内でかなり好調だ。ただ海外のペーパーメディアは国内のそれとはかなり違うので、少しずつ進めており、これからの課題だ。当社のコンテンツに力があることは間違いない。絶対受けると思っている。ただし、受けると売れるとは別の話だ。日本の場合、クロスメディア展開によりTVアニメ化し、コミックで回収するというのが基本的なビジネスモデルだ。コミックが回収マシーンなのだ。だがこのコミック市場に当たるものが欧米には存在しない。このような中で如何に収益を回収するかということをしっかりと考えていかなければならない。解決案は基本的にネット活用にあると思っている。またゲームがコミック化されることもあれば、その逆もありうる。コミックとして提供している作品の中でゲームまたは映画としての展開に適しているものが存在するかもしれない。この点については改めて整理していく必要があるだろう。

 

中村:最近『歴女』といった言葉がはやりだし、歴史モノが流行になっているわけですがその市場についてはどのような戦略がありますか?

 

和田:歴史コンテンツについては、戦国、中国三国時代、幕末をテーマとした作品を募集する「戦・漫画大賞」を開始した。賞金に加えて、大賞には具足一式を賞品として準備しているというユニークな賞だ。これをまず第一歩としていきたい。

 

■ 市場と開発の双方で進むスクウェア・エニックス・グループのグローバル戦略

 

中村:現在、開発プロジェクトの大規模化にともない、ナレッジネットワークや、ツール、ライブラリの共有化などが各企業で進んでいます。現在、御社では、自社ミドルウェアCrystal Toolsの他、Unreal Engine 3.0などのライセンスも取得しています。このような開発面のナレッジネットワークに関するこれからの展望について教えられる範囲で教えて下さい。

 

和田:スクウェア・エニックス社内についても開発情報の共有を進めてきたがEidosは更に進んでおり、Shared Technologyと銘打って、同社が持つ世界中の開発拠点において一定レベルまでゲームエンジンや各種ライブラリを共有化している。更に年に一度、各拠点のトップクラスの開発者を集め、共通の課題などを議論する「アカデミー・オブ・エキスパート」というサミットを開催している。09年は6月に EidosのIOインタラクティブがあるデンマークのコペンハーゲンで開催され、スクウェア・エニックスのスタッフも参加した。グループ内なので NDA(守秘義務)を意識をする必要もなく、様々な国々で、多用な種類のゲーム開発に携わっている開発者が自由に議論できるため、かなり意義のあるものとなったようだ。

 

中村:中国、ロシアといった今後の成長が見込める市場についてはどう思われますか?

 

和田:中国への進出に関しては、ブリザードが同社のMMORPG『ワールドオブウォークラフト』を中国で展開する際に採用したような戦略が正しいと思っている。5万、10万の顧客を意識するのであればまだしも、500万、1,000万といった顧客を意識するのであれば、自前では限界が出てくる。現在、中国のゲーム市場は3,000 億円規模には達していると思う。あくまでも肌感覚ではあるが、日本の家庭用ゲームソフト全体の市場規模とほぼ変わらないだろう。このような市場に参入しないという方が不自然といわざるを得ない。『XI』の際はサーバーの問題に加え、中国語に対応しなければならないという問題があった。だが、『XIV』については当初よりアジアも意識している。

 

 一方、ロシア、東欧を含むBRICs諸国も今後は市場として有望であると思っているが、現段階では販売許諾という形で対応している。だが、当社グループではEidosがハンガリーに開発拠点をもっている。この拠点は中東に対しても足がかりとなりうるので今後は徐々に展開を進めていきたい。

 

中村:では、最後に御社のブランド戦略について教えてください。Eidosとスクウェア・エニックス、そしてタイトーという3つのブランドを、それぞれどのような形で差別化ならびに発展を進める意向でしょうか?

 

和田:LVMHグループが一つの考え方だと考えている。LVMHはルイ・ヴィトン等のラグジュアリーブランドを多数保有する企業グループの持ち株会社だが、この会社が前面に出ることはなく、傘下の会社のブランドを立たせる戦略を取っている。企業としての体力であるとか、交渉力は持ち株会社が中心となって行うことで、事業成長を加速させていく。スクウェア・エニックス、タイトー、Eidosという3つのブランドは、既にそれぞれ際立った個性を持っているので、敢えてそれらに新しい特性を付加する必要はない。我々はストーリーテラーだ。顧客に提供するのは経験価値であるという我々の企業理念を常に意識していきたいと考えている。

 

中村:ありがとうございました。

 

[ Reported by 中村 彰憲 ]

 

 

著者紹介:中村彰憲(Akinori Nakamura)

Akinori Nakamura

立命館大学 映像学部准教授。名古屋大学国際開発研究科後期課程修了。早稲田大学アジア太平洋研究センター、立命館大学政策科学部を経て、現職。学術博士。ブロードバンド推進協議会(BBA)オンラインゲーム専門部会 副部会長、日本デジタルゲーム学会(DiGRAJapan)理事。エンターブレインのゲームマーケティング総合サイト「f-ism.net」にも海外ゲーム情報を中心に連載中。主な著作に『中国ゲームビジネス徹底研究』シリーズなど。

 

 

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